年末休みで時間がとれたので、今シーズン回れていない場所を色々回っていた時のこと。カメラを持って池を散歩していて、通りかかった歩道横の藪の中から「チュッ」っとウグイスが舌打ちしたような声。この声は数年前に別の場所で同じ鳥を見つけた時に聞いていたのですぐにピンと来た。ムジセッカだ。
潜行性の強い鳥だが、初発見時のこの時は幸運で声が聞こえてからすぐに見上げる高さの木の枝に現れた。一声聞いた声で確信はしたが、目に入った姿も茶色味が強くウグイスではないことがしっかりわかった。
せわしないこの鳥にしては珍しく、数秒間日向ぼっこのようにこの枝に静止した後、藪の中へ。待っていると目の前にも出てきてくれた。
枝の影が邪魔な写真だけど、しっかりピントの合った写真が撮れて一安心。証拠は押さえたし、越冬すると踏んでまだチャンスはあるだろうとあまり粘らずに退散。
証拠写真は押さえることができたが、せっかく通えて近距離で見られる場所でムジセッカを見つけたので粘って良い写真を撮っておきたいと、正月休みのうちに何度か見に行った。すると、次に見に行った日以降、最初に見た日のイメージから外れた場所にいたのが不思議なくらい、ほとんどの時間東屋の周りの芦原に潜んでいた。
数年前に別の場所でムジセッカを見つけた時は、川の上に張り出した木の枝や草の中に潜んでいて、後で調べるとそのような場所がムジセッカが好む典型的な環境らしいことがわかった。今回の葦原も地面が湿っている場所だったので、ほとんどの時間を葦原の中で過ごしていたのには納得。また、数年前は直線距離で約200m、幅2mほどの約400m2の川岸を主な行動範囲としていて、今回は約1000m2の葦原を主な行動範囲としていた。越冬期のムジセッカの行動範囲はそこまで広くはなさそうだ。
ムジセッカがいたのはこんな場所。
この場所に来るとすぐに声が聞こえ、存在はわかるのだが、写真を撮るのは至難の業。芦原をちょろちょろ動いているのもすぐにわかるので、双眼鏡で観察する分には観察しやすいが、おなじところに2秒と留まっていないし、そもそも全身が見える場所になかなか出てこない。必死にカメラで追いかけて撮影する。カメラのファインダーに入れながら追いかけて、ちょうど全身が見えたところで連射、の繰り返し。肉眼で全身が見えてからカメラを構えていては間に合わず、ずっと追いかけていないとまともに撮影できない。
飛んで移動する時に目立つ場所に上がって来て一瞬だけ静止するので、その瞬間を捉えることが出来れば写真が撮れるのだが、そううまくいかない。この動きは数年前のコノドジロムシクイに似たものを感じるが、コノドジロムシクイのほうが撮影は簡単だった。
なお、ムジセッカはウグイスと似ていて識別を諦められがちだが、ウグイスは茶色味に乏しく尾羽が長い。また、鳴き声もちゃんと聞けば違うことがわかるはず。
見つけたのが年末だったし、前回別の場所で見たときは越冬したので、今回も越冬するだろうと思っていたら、1月7日に知り合いが確認して以降行方がわからなくなってしまった。その後何回も確認には行ったが見つからなかったので、移動したか落鳥したかのどちらかで姿を消したようだ。一冬じっくり観察できると思っていたので、いなくなってしまったのは残念。【⇒下段追記】
勅使池は鳥目的の人が多く訪れる場所で、ムジセッカがいた場所もわかりやすい場所だったが、僕が見ている間は気づいていた人はいなかった。ムジセッカは東海地方で撮影されたであろう写真がほとんど出てこず、観察記録の少なさからど珍鳥扱いされそうだが、分布域や生息環境を考えるとそれなりに渡来はしているものの見つかっていないだけと考えるのが妥当かと思う。何より、そこまで行動範囲の広くない僕が2回も見つけているのだから。
ムジセッカを見つけるために一番大事なのは声。最初にも書いたが、よく鳴く鳥だと思うし、ウグイスと似ていると言われる声も野外で聞いたらすぐにわかったので、ちゃんと探す人が増えれば記録が増える鳥だと思う。
最近は鳥を探さない、声もわからない、観察しない撮影者が増えているが、しっかり探せばこのくらいの鳥は見つけられるので、せっかく野外に出るなら五感を研ぎ澄まして探すことに挑戦してみてはどうだろうか。
【2024年4月27日追記】
いなくなってしまったと思っていたら、3月中旬に池を歩いた際、12月末に滞在していた場所から300mほど離れた草地でムジセッカの声を聞いた。おそらく場所を変えて越冬していたのだろう。この場所は遊歩道からは見えないところが多く、近くでたまたま鳴いていないと存在に気づけず、姿を見るのもかなり難しいので、この場所に最初からいられたら写真を撮るのは難しかったと思う。